「アーティスト イン レジデンス」と初めに聞いた時「えっ、泊れるの?」と思った。
1ヶ月の家賃よりも安いのなら私も引っ越したい。
 しかし企画者は言う、「夜は8時までです。宿泊できないとアーティスト イン レジデンスって言わないのかと思い企画ネーミングの段階で、知人のイギリス人に聞いたら、滞在制作(Artists in Residence)という意味は宿泊が必ずしも前提ではないとのことでした」。
 SUMISOは実験的な制作・展示の場[kunst-haus]と銅版画工房[han-haus]を持つ。 単なる展示中心のアートギャラリーでなく、アーティストの側に立ち、制作・工房を前提としている姿勢は大阪みなみの道頓堀沿いという好立地条件の中にあって貴重だ。それをフルに生かした企画、これが『 Artists in Residence in SUMISO part1 [portfolio] 』となる。
 この企画の特徴は「制作の場の共有」だ。 「発表を目指して貯金し騒音や粗大ゴミを気にしながら狭いアトリエ兼自宅で夜中に集中して制作するはずが気がついたら夜明け前、行き詰まったアイディアから脱出できずに目も頭もギンギン」あるいは「たいていうまく作れる、発表すれば皆もそれなりに褒めてくれる、けど自分じゃもうちょっとイケルというか、このままよりももう一歩前に進みたい」etc‥‥こんなアーティストが対象になるのではないかと思っている。
 そんな時期のアーティストにとって、自宅から離れたアトリエ(気分の切り替えが可能)天井が高く壁が白いギャラリースペース(展示状態のシュミレーションが常に可能)談話室が併設されている(芸術論を戦わせたりあるいは単なる息抜きとしての交流も可能)と、三拍子揃った場所で過ごす1ヶ月間は、自分の中のもの(創作課題と呼ばれる類いのもの)をよりクリアにより強くしていくチャンスである。 そして自分の中のものがクリアで強いことはアーティストとしてやっていく人生において大変重要である。「制作の場の共有」からそれを得ることができる。「アーティスト イン レジデンス」と聞いて、まず宿泊との一般認識であったり(制作ではなく!)、新聞記事の多くは地域コミュニティとの交流プロジェクトなどを紹介しているが、SUMISOにおいてはつまり「アーティスト自身による制作の場の共有」であり、それが『Artists in Residence in SUMISO part1[portfolio]』である。
  今回はpart1ということで[portfolio]というテーマが設けられている。各アーティストの[portfolio]がビジュアル的に空間にあらわれたり、あるいはアーティスト自身の[portfolio]が企画参加を機に新たな展開を見せるのだろう。 次世代のアーティストに必要な企画である。