川手華と岡野香織の油彩作品
川手は、記憶に残るイメージの断片を写真をてがかりにして再び見えるようにする。
とりたてて見栄えしない風景だったり花だったり、にじんだかかすれたかしたか
のように描かれていて、ともすれば背景(そもそもあるとすればの話)に埋もれそう。
どれもがもやがかかっているみたいに見えて、もっとよく見ようと近づくと、
ただのキャンバスの表面しか見えなくなってしまう。
岡野は、画面一面奇妙な形を繰り返し描いていて一見抽象画のようだが、モデルは
野菜やくだものの形・表面、最近はしまうまなどの動物の模様で、タイトルにも
ずばりそう書いてある。
輪郭がぼんやりしていて、絵の具が微妙に色をずらして幾重にも重ねられているので、
模様がちょっと動いて見えることがある。
2人とも忘れっぽく、本当にそれはあったんだろうか、と問いながら描き続ける。
時として作品は答えとなるが、また時としてはますます分からなくなることもある。
形が、色が、そこに見えているのに焦点が合わない、うっすらとしたいらだたしさが
かき立てられる。まるで「湿気が耳にまで」届くかのように。