→Artist statement
 1992年から現在まで描き続けている巻き物を展示します。この「Life Scroll」は内的イメージを細部にこだわりながらペンによるドローイングで表現していますが、今回はオリジナルのドローイングの他、コンピュータプリントで大きさを1.4倍に拡大したものも展示しますので、細部がより分かりやすくなったと思います。このさき、自分の人生どうなるか一寸先は闇ですが、自分としては、可能な限り、つまり生涯にわたりこの「Life Scroll」を描き続けたいと思っています。
 四角いキャンバスに比較すると、巻き物の長い画面では、様々なものからアイディアやスタイルを自由に導入することが容易です。長い期間描いていると、巻き物自体が生き物のように増殖し、変化していくことを実感しますが、同時に、時間の経過とともに自分自身の変化にも向かい合わなければなりません。「老い」という自分自身の変化に関連しているのでしょうか、以前は群集を描く事に夢中になっていたのですが、ここ数年、無人の風景ばかり描いています。しかし一方で、これは私の意志と言うより、巻き物がそうさせているような感覚を同時に持っています。
 日々の制作の進行はフォトコピーとして記録保存しています。5年前に、それまでのコピーを1コピー、1フレームにあて、アニメーションを制作しました。このアニメーションでは5年間の制作の過程が約5分間に凝縮され、制作速度の変化やスタイルの変遷を動画として見ることが出来ます。今回も会場でビデオとして上映しますのでご覧下さい。最近の5年間分についてはまだアニメーション化はしていませんが、いずれ取りかかります。年齢によるスピードの低下とイメージの枯渇などもやがて画面にあらわれると思います。これもまた「Life Scroll」の表現の一部であると考えています。
 私のもう一方の興味は絵画の中の時間、空間表現です。西洋で成立した透視法は一種の知覚と幾何学の融合と捉えることが出来ると思いますが、巻き物の物語り的時間と非ユークリッド的空間に、あえて透視法の瞬間、ユークリッド的空間表現を導入し、その矛盾を楽しむことにより、時間・空間表現の新しい可能性を探っています。そんなこともご覧戴く時、留意していただければ幸いです。